私たちの『立川パークサイドクリニック』は、立川駅の北西、緑豊かな昭和記念公園近く、明るく、清潔感のあるビルの2階にあります。「精神科」「心療内科」の各種保険診療を行うクリニックです。
当クリニックは2008年11月に開業致しました。開業に先立ち、私は、30年間各種精神疾患の臨床と脳科学の研究に携わり、10年間国立精神・神経センター病院(旧武蔵病院)の精神科の責任者として多くのことを学び、経験してまいりました。
当クリニックでは、豊富な治療経験と長年の脳科学研究に基づき、高い質の医療を、快適な環境で提供することをめざします。
発達・成熟・老化という人間発達の各段階で現れる様々な精神的困難と遭遇する人々に対して、薬の使い過ぎを避け、健康な力を育み、その人らしい生活のあり方を共に考え、支援します。
また『立川パークサイドクリニック』は、心の悩みの解決にじっくり取り組むために、附属カウンセリングセンターを設けました。
そこでは、病気とまでは言えない職場・家庭・学校や人間関係の悩み、あるいは身体の病気やエイジングといった健康問題への不安など、メンタルヘルスの様々なテーマについて、経験豊かな元大学講師の専任カウンセラーがカウンセリングを行います。
精神科医として40年が経過、当クリニックも開業から10周年を迎えました。
勤務医時代とは異なり、開業以来、余計な仕事はせずに、専ら日々の診療に従事、日々約8時間30名前後の診察、ひと月に約400名の方と面談する生活を10年間続けてまいりました。
この貴重な経験から学んだことについて述べます。
治療法の大きな柱である薬物療法は、適薬・適量を探すことに始まります。
適薬・適量が見つかれば、薬物療法は一区切りですが、これは、ゴールではなく薬物療法の折り返し点となります。
続いて、いつになれば薬を卒業できるか、最終ゴールを目指し、減薬の時期を摸索する作業が始まります。
回復に向かい始めた脳と身体は、同じところに留まることなくさらに日々変化していくからです。
一時は丁度良かった薬も、多すぎたり、不要になったりする筈です。減薬の試行錯誤は、医師も患者さんも勇気の要る作業です。
それでも、互いに情報を交換し、協力し合うことで、統合失調症や双極性障害(躁うつ病)、神経症の方でも、生活を拡大しながら、断薬に成功できる例が少しずつ生まれています。
自己実現を図りながら薬の卒業も夢ではないことを実感することができました。無論、断薬後のアフターケアとして、通院を続ける方もいらっしゃいます。
また、断薬だけが最終ゴールではありません。断薬にこだわらず、薬を手元に置き、必要時に頓服し、手持ちの薬(在庫)が無くなれば受診する。それが年に1回、2年に1回となってゆけば、これも一つの卒業と考えます。
こうした卒業を迎えるための「成功の鍵」とは何か。病気と向き合うこと?
いいえ、これだと病気は、時に我が物顔で大威張りします。大切なことは、病気に奪われた主役を自分自身に取り戻すことです。
これが叶えば、病気は、忘れられ、無視され、最早「大活躍」はできません。私たちに自分らしい暮らしが甦ってきます。
ところで、「大人の発達障害」でお困りの方や家族の方たちとお会いする機会も多くなりました。
成人期に問題視されることが増えるのでこのような言い方がされますが、人が自立した人間としての成長・成熟を迎える時期、それまでにない苦悩が生まれるのは誰にでも共通することです。
しかし、その悩みを周囲と共有することが苦手だと誤解や孤立が生じ易くなります。超然と孤高を保つ方もいますが、マイペースに見えても、実は周囲を気にして悩み、それが受診の動機になることも少なくありません。
一見、自分のことしか考えない、自分本位に映るような方でも、例えばペットを可愛がる幸せそうな姿を見かけることも稀ではありません。
人間は自分より弱いものの命を前にした時は、自分を脅かす不安も少なく、安心して自分自身が自分の主役になれる、これが「利他」の気持ちを生みます。
逆に、自分より強い相手や歯が立たない境遇に遭遇すると、自己防衛に走り「利己」的になるのは本能で、一概に悪いこととは言えません。
人は「利己」と「利他」の両方を持ち合わせており、これら両者のバランスが変化します。働くことが、人を元気にさせてくれるのは、「利己」と「利他」が良好なバランスを作ることにあるからです。
働くことに、身代わりは不可能ですので、自ら努力する能動性が発揮されます。幸せな自己実現を図るにも、自ら努力する能動性が不可欠です。それは、決して他人から与えられるものではないからです。
ですから、私は、皆さんに「働く」ことをお勧めします。
無論「働く」と言っても様々で、職場勤務だけに限りません。
その方が、どうしたら「働く」ことを経験できるか、共に創意・工夫するのが、私の生活療法です。
そして、働き続けるためには、たとえささやかでも心と身体の栄養の素となる「喜び」を絶やさず、「快食・快眠・快便」を心掛けること、これこそ究極の養生法と考えております。
病気や症状は、本当に私たちの「敵」でしかないのか、皆様と共に、これからも考え続けてまいりたいと思います。
「・・・からだの痛みは、誰だって御免こうむりたいものに相違ないけれど、・・・僕たちにとってありがたいもの、なくてはならないものなんだ。
―それによって僕たちは、自分のからだに故障の生じたことを知り、同時にまた、人間のからだが、本来どういう状態にあるのが本当か、そのことをもはっきりと知る。
同じように、心に感じる苦しみやつらさは人間が人間として正常な状態にいないことから生じて、そのことを僕たちに知らせてくれるものだ。
そして僕たちは、その苦痛のおかげで、人間が本来どういうものであるべきかということを、しっかりと心に捕えることができる。・・・」(吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』,1937年。岩波文庫1982年版より引用)
Career 経歴
1978年 | 東北大学医学部卒業 |
---|---|
1978年 | 東京大学医学部附属病院精神神経科入局 |
1988年 | 国立精神・神経センター武蔵病院勤務 |
1991年 | カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部神経科学部門 客員研究員 |
1994年 | 富山医科薬科大学医学部精神科神経科 助教授 |
1998年 | 国立精神・神経センター武蔵病院 外来部長 |
1999年 | 同 第一病棟部長 |
2007年 | 同 院長補佐 兼務 |
2008年 | 同 退職 |
その他 | 東京大学医学部非常勤講師、東京医科歯科大学臨床教授を歴任 医学博士 精神保健指定医 |