「精神科」や「心療内科」に通うのは特別な方たちではないかと思われるかもしれません。しかし、例えば、「うつ病」で通院したり、治療を受けることは、もはや珍しいことではないのです。
現在、「うつ病」に限らず、不眠や不安、あるいは重い病気だと思われがちな「統合失調症」にしても、薬物療法と精神・心理療法、生活療法を組み合わせることで、健康な生活を取り戻すことが充分可能となりつつあります。
精神科治療の3本柱である身体療法(主に薬物療法)、精神療法、生活療法について、当クリニックのめざすところを解説します。
精神科の治療で、薬は重要な役割を果たします。精神科の薬を飲むのは、薬で自分の脳や精神がどうかなってしまうのではないかと不安に思われるのも当然です。
したがって、その不安に対する丁寧な説明が必要であり、薬の処方や飲み方も慎重に進めなければなりません。
薬は、沢山飲めば飲むほどよく効くというものではないからです。また、副作用の無い薬はありません。副作用止めの薬にさえ、副作用があります。ですから、必要最低限の薬、すなわち、薬の種類を厳選し、必要な分量だけ飲むことが求められます。
「適薬・適量」を決めることは、実はたやすいことではありません。患者さんと医師の根気強い共同作業が必要です。医師は処方の提案内容と理由を説明し、さらに予想される効果と副作用の現れ方を予告します。患者さんは飲み心地を遠慮せずに報告します。こうした双方向のやりとりが欠かせません。
この互いのやりとりがうまく軌道に乗れば、「適薬・適量」に辿り着くことができるというわけです。無論、これで終わりではありません。これが薬物療法の前半戦、とはいえ最大の難関であることは確かですが、その後、維持療法、そして終了へと大事な後半戦に続くことになります。
多くの場合、維持療法の期間が延々と続けられがちです。というのも、維持療法は、再発しやすい精神疾患にとっては、再発予防の意味があるからです。
ところで、ちょっと話が飛躍しますが、皆さんの中に、風邪が治ったあと、再発予防のために風邪薬を延々と飲み続ける方はいるでしょうか。無論、精神疾患はウイルス感染の風邪とは、メカニズムもおそらく異なるでしょう。それでも、当然のことながら、よくなれば、誰もが薬は卒業したいと考えるものです。
当クリニックでは、可能な限り薬物療法の卒業をめざします。卒業とまでは行かなくとも、維持や予防のための薬物療法も、必要最低限の「適薬・適量」を心掛けています。これには患者さんと医師とのさらに高度な相互協力が求められます。というのは、薬の減量に伴う病状悪化は、傍から見ているのではわかりにくく、患者さん自身が最も高感度に感じ取ることができるからです。
せっかく減った薬なのに、調子があやしいのでもう一度以前の処方に戻したいと患者さんの側から提案するのは大変な勇気のいることですが、これが再発・再燃予防には欠かせません。
薬の効果には、素晴らしいものがあります。しかし、同じ薬でも、患者さんが納得して飲んでいただくのとそうでないのとでは、不思議と効き目が違うようです。それは、何故でしょう。精神療法は心を通じて脳に作用し、薬は脳を通じて心に作用する、そうした相互作用が存在するからかもしれません。
さらに、薬も歯が立たない心の悩みというものもあります。そうした心の有り様について、整理と転換をお手伝いするのが精神療法です。
では、心の悩みというのは、どこからやってくるのでしょうか。落ち着いて鍵探しをしてみると、仕事や学業などのでき栄えや、同僚や友人との人付き合い、家族のことなど手がかりを発見できることもあります。
しかし、どう考えても自分の外に原因を見つけられず、自分の暮らしぶり、生活のあり方などに問題があるように感じられることも少なくないでしょう。生活療法は、生活と人生のこれからを共に考え、その方らしい生きがい探しとその実現のお手伝いをすることです。
こうしてみますと、生活療法は、精神科治療の3本柱の1つであると同時に、その全体を統合するものでもあると言えるでしょう。
当クリニックでは、血液、心電図、脳波の検査が可能です。精神症状は、身体の不具合に原因があることも珍しくありません。そのために、小規模なクリニックでも可能なこれらの検査を行うことが大切だと考えています。
脳波検査は、てんかんや脳機能障害の評価に役立つ無害な脳機能検査として、簡便で有用です。また、薬物療法を一定の期間継続する場合、血液検査や心電図検査など定期的な副作用チェックも欠かせません。